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「太郎が結婚するときには」亡き母からの結婚祝い

おととしのお盆過ぎに亡くなった母を、当時入所していた施設に見舞いに行ったとき、「いつまで生きていられるかわからないから、太郎ちゃんの結婚祝いを預かってくれないか」と言ったことがありました。

太郎は私の長男です。

その時は「いつのことになるかわからないからまだいいよ」と答えました。

年金を貯めて準備をしていたのでしょう。

母が亡くなり、そのままそのことは忘れていました。

去年、婚約者のご家族と顔合わせの食事会をしたりしましたが、二人ともまだ大学院生だったので、結婚式の時期はまだ未定ということでした。

今年二月に「入籍して一緒に暮らす部屋を決めた」と言ってきました。

結婚式の予定を聞くと、「結婚式はしないで両家の顔合わせの食事会を計画しようと思う」ということです。

二人ともそれぞれの事情があり、すぐには食事会の予定が立たない様子です。

入籍のことを聞きつけた兄と弟が、結婚式はしないということで、お祝いを渡すタイミングを思案していましたが、とうとう持ってきてくれました。

祝儀袋が三通ありました。

兄弟以外の一通は、母のものでした。

はっと思い当たりました。

母は亡くなる前に、太郎が結婚するときには渡すよう、兄に託したのでしょう。

思いがけないほど高額の十万円が入っていました。

亡くなってからの時間がたった分、余計に重さを増した母からの結婚祝いでした。

優しいほほえみを浮かべた母の写真は、ほかの家族写真と一緒に部屋に飾っています。

子煩悩で、私たち三人の子どもや孫の誕生日には、必ずお祝いをくれました。

母は実母である祖母が再婚した時、祖母の兄である伯父に引き取られて育ちました。

意識していたわけではなくとも、実の母に捨てられたという思いが、子どもや孫への母の強すぎるほどの愛情の原因ではないかと感じます。